丁度その頃、一人の力士が太平洋西部へと進入を試みていた。
プラズマ推進スカートつきのマシン襦袢を身に纏い、ただひたすら前へ。前へ、前へと。
その推力は大気を引き裂き、海に鋭い線を描く。

不意に、前方の海が揺らいだ。

身じろぎもせずそれを見据える力士。
彼はこの不吉な兆候を見ても全く速度を落とそうとはしない。
むしろ逆だ。
力士は加速する。
プラズマの青白い光が稲妻の如く海上を走り、現れるものへと直進した。

一方で海から来たるものもまた、真っ直ぐに飛び出してくる。
それは一本のミサイルだった。尋常のものではない。環太平洋連合の保有する最新兵器、位相転換型反物質ミサイルだ。
力士は何気なく片手を正面へと突き出した。
凄まじい力が炸裂し、ミサイルが爆発する――かのように思われた。

だが実際には違う。
力士の手より発せられたエネルギーはミサイルを包み込み、一切の衝撃さえ与えないままに後ろへと押し戻す。
『柔』のエネルギーと『剛』のエネルギー。それもこの上なく純粋なものを八十二層重ねた力場。
それがミサイルを沈黙させ、推進力さえ失わせたのだ。
こんなことができる力士は、一人しかいない。

横綱・束子山。

格付けバトルロイヤルにおいて、立ちはだかる百七人のライバルをホーミング猫騙しのただ一手で撃破した男。

そしてその束子山こそ、救世主。
マリアナ海溝に沈む超古代の遺産を受け継ぎ、銀河を救う運命にある者。
Sumo king Tawashiyama
-Savior of the galaxy-